2010年10月15日金曜日

「住宅クラウド」の衝撃

 クラウドコンピューティングへの認知度が高まり、電子メールやグループウェアといった用途に関しては普及を始めている。だが、ビジネスのやり方そのものを変えるようなクラウドの使い方をする例はそれほど耳にしない。その一例になりそうなのが、一般財団法人 住宅都市工学研究所が進める「住宅クラウド」だ。

 分業化が進む住宅建築の現場において、CAD図面をはじめとしたさまざまな情報をクラウド基盤上で共有し、さまざまな事業者が連携する。クラウドはITの領域にとどまらず、ビジネス自体を変えるような使われ方も期待されており、事例として注目できる。

 「住宅システムの情報処理コストを現状の半分にしたい」

 こう話すのは、住宅クラウドの立ち上げを図る住宅クラウドコンソーシアム設立準備室の室長、北上義一氏だ。ミサワホームのCIO(最高情報責任者)を退いた後、一般財団法人、住宅都市工学研究所のICT研究部の部長に就任した。重い初期投資を避け、必要な機能を選び、使った分だけ費用を支払うというクラウドの特性は、現在の建築業界と相性が良い。

 建築業界では、住宅性能評価、長期優良住宅認定制度や瑕疵(かし)担保履行法、建築基準法改正など法制度が複雑化しており、中小の工務店などが変化に追いつけなくなっているという。結果として、大企業との情報処理格差が拡大している。また、建築工程の分業化が進んでいることも、取引先同士の情報流通を難しくしている。一般に、住宅建設は工務店、設計事務所、さらに木材などを機械を使って加工するプレカット工場といったさまざまな事業者が連携して成り立っている。

 事業者間で行うCAD図面などのやりとりが複雑になるため、それぞれの情報処理コストの負担も大きくなってしまう。建築設計事務所などの多くが1?3人といった少人数で運営している一方で、CADのソフトウェアは、使わない機能も含めて購入せざるを得ず、コストは200?300万円に上る。そのため、大きなコスト負担なく、情報処理格差を縮める仕組みには需要がある。こうしたニーズに目を付け、日本ユニシス?エクセリューションズや日本システムディベロップメントなどソリューションベンダー10社が、コンソーシアム立ち上げに協力している。

 住宅クラウドの目玉となる機能は、さまざまなフォーマットのCAD同士を連携できる「住宅ひろば」と呼ぶ機能だ。住宅ひろばでは例えば、X社のCAD、エクステリアCAD、プレカットCAD、意匠CADなどさまざまなフォーマットのCAD同士が連携できる。分業化が進む建築業界では、CADのスムーズな連携はビジネス自体の円滑化につながるという。

 このほかにも、建築関係のさまざまな業者が集まることによる規模の利益を生かし、部材などの共同購買サービスを実施することも視野に入れている。「ロットが集まらないことには単価が下がらない」という中小事業者の悩みを解消できるかもしれない。

 さらに、住宅の履歴管理サービスの実施も視野に入れている。住宅の情報をデータベースで管理しておけば、例えば所有権の移動があったとしても、登録情報を変えるだけで済む。家を建てた建築会社が将来倒産したとしても、データベース上に建築時のCADデータなどが保管されていれば、リフォームやメンテナンスがしやすくなる。結果として、住宅の長寿命化が図れる。国が推進する「長期優良住宅」構想の実現にもかかわっているという。

 ただし、住宅クラウドを実現する上でまだまだ課題も多い。例えば認証の問題である。当初、住宅クラウドに参加する企業は、それぞれ異なるデータセンターにリソースを保持している。ユーザーがさまざまな機能を利用しようとすると、システム的には複数のデータセンター上にあるアプリケーションにアクセスすることになる。データセンター間の連携がうまくできていない場合には、機能ごとに認証する必要が出てくる。ユーザーの利便性を考える場合には、「シングルサインオンなどの連携の仕組みが求められる」(北上氏)という。データセンター間の連携が増えると、SLA(サービスレベルアグリーメント)の設定をはじめ、責任の所在を明確化する必要も出てくる。

 課金の問題もある。例えばCADの連携の場合、どのタイミングで課金するかが明確になっていなくてはならない。「図面の保存」「出力」などのボタンをユーザーが押したタイミングで、それをトリガーとして課金するような仕組みをつくる。

 「使う機能ごとにバラバラに請求書が出るような仕組みにはしたくない」(北上氏)

 建設業界では、清水建設からスピンアウトしたベンチャー企業、プロパティデータバンクが、路線価などの影響を受け変動しやすい不動産に関する情報をクラウド上で提供するサービスを提供している。このほか、旅行業界などでも、同様のサービスが始まろうとしている。今後、クラウドがさまざまな業種のビジネスの在り方を変えていく可能性がある。【怒賀新也】

引用元:RMT ワイアード リアルマネートレード総合サイト

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